2026年3月に開催される第6回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の日本国内における放映権を、米動画配信大手Netflixが独占獲得したことが2025年8月25日に報じられた。
このニュースは、野球ファンの間で大きな話題を呼んでいる。
過去5大会では地上波放送を中心に国民的な盛り上がりを見せてきたWBCだが、今回は全47試合がNetflixでライブおよびオンデマンド配信され、地上波での同時放送は困難とされている。
この変化は、スポーツ視聴のあり方を根本から変える可能性を秘めており、その背景や影響について考察する。
NetflixのWBC独占配信の衝撃
Netflixが2026年WBCの日本国内独占放映権を獲得したことは、スポーツ放送におけるパラダイムシフトを象徴する出来事だ。
これまでWBCは、2006年の初開催以来、地上波放送を通じて多くのファンに届けられてきた。
特に2023年の第5回大会では、決勝の日本対米国戦が平日午前にもかかわらず平均世帯視聴率42.4%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)を記録し、日本戦全7試合が40%超という驚異的な数字を叩き出した。
この「国民的イベント」ともいえる熱狂は、無料の地上波放送が視聴の裾野を広げた結果だった。
しかし、2026年大会では、WBC主催者であるWORLD BASEBALL CLASSIC INC.(WBCI)が、従来のパートナーである読売新聞社を介さず、直接Netflixに全試合の放送・配信権を付与した。
これにより、地上波での生中継は実現しない見通しだ。
報道によると、NHKや民放各局は報道目的での試合ハイライト映像を放映可能だが、試合のフル視聴はNetflixの有料会員登録が必須となる。
放映権高騰と配信プラットフォームの台頭
この変化の背景には、放映権料の高騰がある。
2023年大会の放映権料は約30億円で、2017年大会の3倍に跳ね上がったとされる。
高額なコストは地上波放送局にとって大きな負担となり、撤退観測が浮上していた。
一方、潤沢な資金を持つNetflixは、グローバルでのスポーツライブ配信戦略を加速させており、2024年にはボクシングのマイク・タイソン対ジェイク・ポール戦やNFLのクリスマスゲーム、2025年からはWWEの「WWE RAW」を独占配信するなど、スポーツコンテンツに注力している。
WBCの日本独占配信は、Netflixにとって初の日本国内ライブイベント配信となり、野球ファンを取り込む戦略的な一手といえる。
視聴体験の変化と新たな課題
Netflixの独占配信は、視聴者に新たな体験をもたらす。
すべてのプラン(広告付きスタンダードからプレミアムまで)で視聴可能であり、ライブ配信に加えてオンデマンドでの見逃し視聴も提供される。
これにより、時間や場所に縛られず試合を楽しめる利点がある。
特に、4K対応テレビやモバイル端末での同時視聴、字幕やリアルタイム通知の活用は、現代の視聴ニーズに応えるものだ。
しかし、地上波放送の消滅は、視聴のハードルを上げる懸念も生む。
SNSでは、「お金を払わないと日本代表の試合すら見られない」「野球離れが心配」との声が上がっている。
実際に、2022年のLINEリサーチによると、プロ野球観戦者の最多層は50代で、次いで40代が多く、こうした中高年層は地上波に慣れ親しんでいる。
Netflixへの移行は、こうした層にとって新たな障壁となり得る。
また、子供やライト層が気軽に視聴できないことで、長期的な野球人気や競技人口の減少が懸念される。
どう準備すべきか?
ファンにとって、2026年WBCを確実に楽しむには事前準備が重要だ。
まず、Netflixの契約確認とアプリの更新、安定したWi-Fi環境の整備が必要となる。
家族での同時視聴を考える場合、同時接続台数や回線速度の確認も欠かせない。
また、パブリックビューイングや飲食店での放映を希望する場合、権利処理の条件を事前に確認する必要がある。
大会主催者や自治体は、視聴ガイドの提供や高齢者向けサポートの拡充を通じて、視聴のバリアを下げる努力が求められる。
スポーツ視聴の未来とWBCの意義
NetflixのWBC独占配信は、スポーツ放送の「配信ファースト」時代への移行を象徴する。
サッカーW杯でも放映権料の高騰が問題となっており、2026年大会では過去最高の400億円超が予想されるなど、地上波放送の限界が露呈している。
WBCの配信独占は、スポーツの公共性や情報格差といった課題を浮き彫りにする一方で、視聴体験の多様化を促進するきっかけにもなるだろう。
WBCは、野球選手が国を背負って戦う特別な舞台であり、ファンにとってはその熱狂を共有することが大きな魅力だ。
Netflixの参入により、視聴の「入口」は変わるが、野球の魅力を広く伝えるためには、プラットフォームや主催者が視聴環境の整備やファンエンゲージメントを強化する必要がある。
2026年、配信時代における新たな「国民的体験」をどう作り上げるか。ファンも、賢く準備してその瞬間を迎えたい。

